生徒の自主性の成長を促す教育法である「ハークネス法」を実践するフィリップス・エクセター・アカデミーの校長を2015年9月まで務めていたのが、Thomas Hassan氏です。
校長という立場を退いてからも、世界各地でエリート教育および名門大学受験の啓蒙活動を精力的に行っているHassan氏の経歴をご紹介します。
Thomas E. Hassan’s Profile
フィリップス・エクセター・アカデミー入職以前の教育との関わり
幼いころから読書を好み教師になる夢を持っていたHassan氏は、アイビー・リーグ校のうちの1校であるブラウン大学に進学し、数学と国語の教員免許を取得しました。しかし在学中に大学同窓会の職員として働く機会があったことから、卒業後にはブラウン大学の入試課に勤めることになります。
入試課職員としてアメリカ国内の様々な中学・高校を訪ねたことで、Hassan氏の教育への関心はさらに高まり、4年間の勤務を経てハーバード教育大学院に進学し、教育学修士号・博士号を取得します。
大学院在学中も学部1年生の補佐や教員養成プログラムの助手、そして学部生の奨学金などの相談窓口担当としての活動を経験し、博士課程後期にはロックフェラー兄弟財団のコンサルタントやリベラル・アーツ大学の名門ウェズリアン大学学長特別補佐を務めるなど、高等教育の専門家として活躍しました。
フィリップス・エクセター・アカデミーでの取り組み
Hassan氏がフィリップス・エクセター・アカデミー(以下、エクセター)に入職したのは1989年のことです。それまでの経歴を活かし大学進学カウンセラーを務めたのちに、1994年に入学事務局長に就任しました。2001年から8年間副校長を務める中で2005年から2006年にかけては校長代理も務め、2009年からは第14代校長としてエクセターの教育を担うことになります。
20年以上にわたりエクセターで学校の運営と教育に携わる中で、Hassan氏は様々な取り組みを行いました。たとえばエクセターのキャンパス内は建物も含めほぼすべてがバリアフリー化されていますが、これは教員からの発案をきっかけに生まれたUniversal Accessというプロジェクトによるものです。病気や怪我のため車椅子を使う人、杖をついて歩くお年寄り、たくさんの荷物を持って登校する生徒など、地域の住民を含め多くの人が訪れるキャンパスだからこそ必要とされた大規模な環境の整備は、大きな実績として校内外で取り上げられています。
エクセターは学業面にスポットが当たることが多いですが、クラブ活動や学生団体の活動なども活発に行われています。Hassan氏が設立から携わった団体のBest Buddies Clubは、特別な支援を必要とする地域の子ども達と一対一で交流・支援することを目的に活動を行っており、今なお学内で最も意欲的に活動を続けるクラブの一つです。Hassan氏はこの他にも学生寮の運営も行うなど、教育と生活の両面から生徒と学校を支えることで、全米を代表する名門校の伝統を守りながら、時代の流れに先駆けた改革に取り組みつづけました。
フィリップス・エクセター・アカデミーとは
海外の名門大学には公立・私立含めて様々な高校から学生が集まりますが、中でも毎年多数の進学者を出しているのが、「ボーディング・スクール」と呼ばれる寄宿制の中等教育機関です。米国に250校ほどあるボーディング・スクールの中でも、Hassan氏がこの9月まで校長を務めていたフィリップス・エクセター・アカデミーは特に長い歴史を持ち、かつ進学実績が突出している学校の一つとして知られています。1781年の創設以来、卒業生の多くが米国のハーバード大学を含むアイビー・リーグ校や英国のオックスフォード大学、ケンブリッジ大学といった一流大学に進学しており、Facebook創始者のマーク・ザッカーバーグなどの著名人も多数輩出しています。
教育の専門家として
エクセターの校長職を退いた現在では、ニューハンプシャー州知事を務めるMaggie Hassan夫人を公私ともに支えています。また、エクセターで行われているハークネス法を世界に広めるために、講演やセミナーなどを積極的に行っており、グローバル社会における教育の活性化のために尽力しています。
ほかにも、ボーディングスクールへの留学希望者を対象とした活動や、日本を含めた非欧米圏出身の学生の海外名門大学への関心をより高めるために、海外大学ならではの魅力や出願方法についての講演も行っています。中等教育に関してだけではなく、大学進学や進学後の高等教育についてもスペシャリストであるHassan氏ならではの今後の教育活動に、世界が注目しています。
ハークネス法とは
ハークネス法は、エクセターを象徴する教育法です。授業は、12名程度の生徒と教員がハークネス・テーブルという楕円形のテーブルを囲み、討論形式で進められます。教員は、時には一歩引いて生徒の発言を引き出し、活発な議論を促して意見をまとめる役割を担います。文学作品を読み解く授業のように、討論の余地がありそうな科目はもちろん、歴史や経済などの社会科学系の科目でも仮説を立てて生徒に問いかけ、学習内容を踏まえた各自の考えを授業内で引き出します。理数系の科目でも、生徒は問題演習を通じて解法を互いに発表し、疑問点を解説し合いながらクラス全員で理解を深めていきます。このメソッドでは「問題に対して正しく答えられること」だけではなく、学習内容を自分なりに理解し、それに対する意見を述べられるまでに考えを深めることが目標とされています。